
夏祭りは、古代から続く日本の四季に根ざした文化です。
日本各地で行われる夏祭りには、それぞれの地域の歴史や神話、先祖供養、疫病退散といった意味が込められており、地域の人々が一体となって伝統を次世代に受け継ぐ大切な行事です。
現代では、夏祭りは地域活性化のための観光資源としても重要な役割を果たしており、地域の経済や文化の発信にも貢献しています。
夏祭りの歴史

夏祭りにはそれぞれ歴史があります。
どうして夏祭りが開催されるようになったのか、その歴史を紐解いてみましょう。
夏祭りの起源は?
夏祭りの起源には、各祭りごとに異なる背景と由来があります。
日本各地で夏祭りが行われるようになった背景には、山岳信仰などの自然崇拝や祖先への信仰が深く関係しています。日本は古くから、四季の移り変わりや自然現象に大きく影響を受けながら生活してきました。
特に、夏は稲作を中心とした農業において稲が成長する時期であり、この時期に行われる祭りは、豊作を祈願する儀式としての役割を持つものも少なくありません。
また、先祖の霊を供養する儀式や、疫病を払う願いが込められた儀式などが原型になった夏祭りもあります。
夏祭りには意味がある
夏祭りは、ただ楽しくみんなでワイワイしよう!暖かい季節だから外に出てみよう!というものではありません。
多くの場合、夏祭りには深い意味が込められており神事や供養という宗教的・慣習としての意味が込められています。
例えば、田植えが終わり、稲が順調に育つように神に祈りを捧げる「田遊び」や「御田植祭」といった行事のひとつです。他にも、七夕などの神話が背景という祭りもありますし、疫病退散など願いが込められている祭りもあります。
夏は気温と湿度が高いため病気が蔓延しやすい時期でもあります。このような季節だからこそ、疫病を払う目的の祭りも多いのです。
博多祇園山笠も疫病退散を願った祭りだとされています。また、悪霊を払うという願いが込められた祭りもあります。
奈良時代や平安時代には、貴族や皇族たちが行う「御霊会(ごりょうえ)」という祭礼が行われていました。この時代は非業の死を遂げた人の悪霊が報復として疫病を引き起こしているとされており、その悪霊を鎮めるために「御霊会(ごりょうえ)」が行われていたのです。これが、京都の祇園祭の起源とも言われています。
さらに、夏祭りでは火や水を利用した儀式も多く見られます。これも、神聖な火を使って悪霊を追い払い、邪気を浄化するというものです。
京都の「五山の送り火」は先祖の霊を送り出すためのものです。
また、各地で行われる「水かけ祭り」や「船祭り」も自然の力を使って供養や除霊をするという、古来から地域に根ざしていたスピリチュアルな考え方に基づくものです。このように、夏という季節に人々が持っていた願いや神話が、それぞれの地域ごとに発展し夏祭りの原型となっています。
地域ごとの代表的な夏祭り

夏祭りは多様な文化や伝統が継承される行事です。
各地域には代表的な夏祭りがあり、中には全国から観光客が訪れる一大イベントとして知られている祭りもあります。
東北地方の夏祭り|ねぶた祭り・竿燈祭り

東北地方の夏祭りといえば、青森の「ねぶた祭り」と秋田の「竿燈祭り」が有名です。
ねぶた祭りは青森県の夏祭りです。巨大な灯篭「ねぶた」を担ぎながら街を練り歩くというとても勇壮な祭りで、大変迫力があり火がともされたねぶたの美しさは日本人だけでなく外国の方からも人気があります。
ねぶた祭りは1980年に国の重要無形民俗文化財に指定されました。
竿燈祭りは秋田県の夏祭りです。長い竹竿にたくさんの提灯を吊るし街を練り歩く祭りです。
竿燈は稲穂を、そして、連なって吊されているたくさんの提灯は米俵に見立てられています。この竿燈は大きさがいくつかあるのですが、最も大きい物では高さが12メートルにもなります。
そしてこの竹竿を額・腰・肩にのせて豊作を祈るのです。その姿はとても勇壮で素晴らしい技術と経験を持って執り行われる伝統的な夏祭りです。竿燈祭りは、重要無形民俗文化財に指定されています。
関東地方の夏祭り|三社祭・神田祭

三社祭は浅草神社で毎年5月の第3週末に行われている祭りで、正式名称を「浅草神社例大祭」といいます。
三社祭りは、浅草寺の創建に関わったとされる檜前浜成、檜前竹成、そして土師真中知を祀る祭礼が起源となっています。この三人の神様を祀るため「三社祭」と呼ばれています。とても、見所が多い三社祭ですが「宮神輿」が特に有名です。宮神輿は祭り期間中の「おまつり広場」などで見ることができますが、本社神輿渡御「東部方面宮入」は町内会の人しか参加できません。
神田祭は、神田明神で行われている祭りで別名を「天下祭」とも呼ばれています。この祭りは、毎年開催されているわけではなく、2年に一度、隔年で5月というスケジュールで行われています。神田祭は、「日本の三大祭り」や「江戸三大祭」のひとつでもあります。神幸祭という神事や御輿宮入、太鼓フェスティバルなどが有名です。
中部地方の夏祭り|高山祭

中部地方で有名な夏祭りには岐阜県の「高山祭」があります。
高山祭は、日枝神社例祭「山王祭」と、櫻山八幡宮例祭「八幡祭」のふたつの祭り行事からなっています。
高山祭りは屋台が有名ですが、ここでは食べ物を売っているお店のことではありません。高山祭の屋台とは、山車や曳山のことを指しています。この地域では古くから山車や曳山を屋台と呼んでいるのです。
この屋台は江戸時代から続くとても伝統的なもので、とても美しい装飾が施されています。また、夜に行われる山車の巡行はとても幻想的で多くの観光客が訪れるイベントとなっています。
高山祭は、ユネスコの無形文化遺産にも登録されています。
関西地方の夏祭り|祇園祭・天神祭

祇園祭は1000年以上というとても長い歴史がある祭りです。
7月1日の吉符入から7月31日の疫神社夏越祭まで1ヶ月という長い期間をかけて行われる八坂神社の祭礼です。祇園祭は、日本三大祭りの一つとして知られており、期間中は京都の街が祭り一色になります。
祇園祭の起源は、平安時代の869年に疫病を鎮めるために始められた「御霊会」であるとされています。そして、1ヶ月の及ぶ祇園祭のハイライトとされるのが巡行です。巡行は、山や鉾が通りを練り歩くというもので、たくさんの観光客が訪れるイベントです。
天神祭りは祭神である菅原道真の命日に各地の天満宮で行われる祭りです。全国で行われていますが「大阪天満宮」で行われる天神祭りは規模が大きく有名です。
大阪の天神祭りは日本三大祭り・大阪三大夏祭りのひとつでもあり、毎年、たくさんの人が訪れるイベントとなっています。
天神祭りは、毎年6月下旬の吉日から7月25日まで開催されており、祭りのクライマックスの7月25日本宮の夜には100隻もの船による船渡御と奉納の花火が打ち上げられ、水と火の両方の夏祭りの要素を楽しむ事ができます。
中国・四国地方の夏祭り|阿波踊り・よさこい祭り

阿波踊りは徳島県徳島市で毎年8月12日から15日にかけて行われている祭りです。全国的に有名で、日本三大盆踊りのひとつとして知られています。
阿波踊りの起源は江戸時代で、阿波踊りの独特のリズムと踊りは全国的に知られています。阿波踊りでは「連」と呼ばれるグループで踊りを披露しながら通りを練り歩くのですが、飛び入り参加者のための「連」があるため、一般市民や観光客も踊りに加わることができます。
祭りで時折見られる排他的な要素が比較的薄く、誰でも参加できるというのも阿波踊りの魅力です。
よさこい祭りは高知県で毎年8月9日から12日に行われている祭りです。四国三大祭りのひとつとされています。よさこい祭りは、8月9日の前夜祭にはじまり、8月10日11日が本祭、そして、8月12日が全国大会という流れとなっています。
阿波踊りに対抗する形で作られたという比較的新しい祭りで地域おこしという要素が強い夏祭りです。新しいスタイルをどんどん取り入れている祭りでもあり、踊りでは様々なダンスの要素を取り入れた演舞が行われます。
前夜祭では花火の打ち上げも行われて、とても大きなイベントです。よさこい祭りは、4日間で100万人の観光客が訪れる全国的に有名な祭りとなっています。
九州地方の夏祭り|博多祇園山笠

博多祇園山笠は、福岡市で毎年7月1日から15日にかけて行われる祭りで、国の重要無形民俗文化財に指定されています。
博多祇園山笠では「流れ」というグループごとに櫛田神社に向かう決められたコースを通って山笠を奉納する櫛田入りが有名です。
伝統を大切に守る祭りで、現在でも担ぎ手は男性のみという女人禁制のしきたりを守っています。また、担ぎ手として祭りに参加できるのはその地域の出身者など関係者のみとされています。
博多祇園山笠の起源は諸説ありますが、疫病退散の祈願がその起源であるとされています。祭り期間が近づくと福岡市内の各所に山笠が飾られ美しい山笠を間近で見ることができます。
博多祇園山笠のクライマックスである、神輿を担いでタイムを競う櫛田入りは早朝であるにもかかわらず多くの人が沿道や櫛田神社を訪れて見物しており、地元ではテレビ中継もされています。
夏祭りにまつわる神話と伝説

夏祭りの歴史を知ろうとするとき、神話や伝説にも目を向ける必要があります。
夏祭りにまつわる神話や伝説をいくつかご紹介します。
夏祭りに関連する神話
日本各地で行われる夏祭りには、古代から伝わる神話や伝説が色濃く反映されたものが多く見られます。実は、有名な神話の天岩戸(あまのいわと)の神話も夏祭りに影響しているのです。
天岩戸の神話は、太陽神の天照大神が、弟の素戔嗚尊(すさのおのみこと)に怒って、天岩戸に隠れてしまうという話です。
太陽神の天照大神が岩戸に閉じこもってしまったため、世界は暗闇に包まれてしまいます。
困った他の神様達は天照大神になんとか、天岩戸から出てきて貰おうと、天鈿女命という神様が岩戸の前で踊りを踊ったのです。そして、天照大神は踊りの音楽や踊りに惹かれて天岩戸から出てきます。
この神話は、夏祭りで行われる盆踊りや演舞に影響を与えたとも言われています。
古代から伝わる神話や伝説が今の夏祭りにも影響している
天岩戸の神話のように、古代から伝わる神話や伝説は今の夏祭の由来になり、強く影響を与える要素となるものが多くあります。
祇園祭りの御霊会や京都の送り火などもその代表的な祭りといえるでしょう。
夏祭りはにぎやかで楽しいものですが、集まってワイワイしているだけではなく、歴史や伝統がその背景にあるのです。
夏祭りと秋祭りは目的が違う

夏祭りと秋祭りの違いは明確ではありませんが、目的と行事の内容にあります。
夏祭りは、厄除けや疫病退散、先祖の霊を供養するといった目的の祭りが多く、盛大な踊りや神輿の巡行があるのが特徴です。
一方で秋祭りは、収穫の感謝祭としての性質が強く、神様に豊作を感謝し共に喜ぶ儀式や奉納行事が中心となります。
また、収穫を祝うと同時に、来年の豊作を祈る意味も込められています。夏祭りも秋祭りも神事があり、各祭りごとに目的が異なるため似ているように感じるのも無理のないことでしょう。
夏祭りの魅力とは?

夏の恒例行事として浸透している夏祭りは、様々な魅力があります。
夏祭りの魅力と役割を考えてみましょう。
夏祭りはみんなで楽しむ伝統行事
夏祭りは、多くの場合地域の人々が一体となって楽しむ伝統行事です。
老若男女が参加し、盆踊りや屋台、花火などのイベントが行われることで地域の人々の交流の場となっています。
地域に根ざした祭りは世代を超えた人々の交流の場としての機能を持っており、規模が小さい地元の夏祭りは特にこの要素が強くなります。
また、全国的に有名な夏祭りでは他の地域から観光客が訪れて地元の人と一緒に楽しむ交流の場であると同時に、地域の観光資源にもなります。
夏祭りと地域活性化
夏祭りは地域活性化のための観光資源ともなるイベントです。
全国的に有名な祭りであれば、100万人以上の観光客を呼び込むことも珍しくありません。観光資源としての祭りは、地域経済を支え、地域の魅力を発信するうえでも意味があるものです。
その地域の知名度があがりますし、祭り期間中には観光客が訪れるため経済効果も見込まれます。
また、地元の特産品や地域独自の文化のPRの場としても機能しています。地域に根ざした伝統的な神事を全国的に知ってもらう機会となる夏祭りは、地域の伝統を継承するという意味でも重要です。
文化継承としての夏祭り
夏祭りには、地域の伝統文化を次世代に受け継ぐための行事という重要な役割があります。
夏祭りで行われる行事や儀式、伝統はそれぞれの祭り・地域ごとに異なります。ですが、その多くは古くからの伝統や習慣、その地域の信仰が背景にあります。
神輿や山車、踊りや歌といった祭りの行事ひとつひとつがその地域の歴史や文化を象徴しています。
そして、このような伝統行事が祭りを通して次世代に受け継がれていきます。幅広い年代が祭りに参加し、次世代に祭りの伝統を継承することは、若者が地域の歴史に触れる機会となります。
こうして、地域の…ひいては、日本の伝統文化が次世代へと継承されていくのです。
また、地域の人々が一体となって取り組む祭りは、地域の絆や共同体の大切さ、そして、地域社会の一員としての責任感を育むという役割も果たしています。
太鼓と祭囃子の意味とその役割
祭りといえば、太鼓と祭囃子が欠かせません。
太鼓のリズムや祭囃子は、神々への奉納や先祖の供養、悪霊を追い払うという意味があり、とても力強い音として軽快なリズムで祭りを彩ります。
使用されている楽器も伝統的な物が多く、普段はあまり耳にすることがない太鼓や囃子は祭りの雰囲気を盛り上げています。
特に、太鼓の音は、古来より神聖な意味を持っており、悪霊を追い払う力があると信じられてきました。太鼓や祭囃子は、地域ごとに異なる伝統が守られており、それぞれの地域ごとに特性があるのです。
まとめ

夏祭りは、古代から続く日本の伝統や信仰を次世代に伝える大切な行事です。
その背景には神様への感謝を表す神事や先祖の供養、そして、疫病退散などの意味が込められており、また、日本の神話も影響しています。
夏祭りは単に集まって交流をするという場にとどまらず、伝統と歴史の継承の場としての意味も持っています。また、規模が大きな夏祭りは観光資源としての要素もあるため、経済効果や地域のPRにも繋がっています。

カメラとピアノが趣味のライターです。某有名バンドの大ファンで遠征がてら観光するのが好き…地方の工芸品や歴史にも興味があります。
自宅ではゴールデンレトリバーとインコ、猫に囲まれてコーヒーを片手に執筆しています。様々な角度から日本の魅力をお伝えします。