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歌舞伎役者が顔に施している化粧である「隈取」。
線の色や、演じる役によって形が異なるのをご存知でしょうか?
隈取の役割とは?下地の意味は?これらの疑問に丁寧に解説しています。
隈取の役割を知れば、歌舞伎をより深く楽しめます。ぜひ、本記事を参考にして、歌舞伎を楽しんでください!
歌舞伎における隈取とは?
隈取は、役の性格や身分をあらわす役割があり、ひときわ強い印象を与えます。化粧を施した地色に筆で線を引き、指で片側へぼかしていく化粧法で、「描く」のではなく、隈を「取る」ことから隈取とよばれます。
隈は、光と陰の境目を意味しており、血管や筋肉を大げさに表現しています。初代市川團十郎が、歌舞伎を演じるのに導入したことが起源とされていて、隈の色にも意味があります。
このように隈取は、役柄などを表現するために重要な役割を果たしているのです。
歌舞伎の化粧とは?
歌舞伎における化粧は、その役柄を示す意味があり、観客はその化粧から登場人物の役割や身分などを理解します。
たとえば、白の地色は善人や高貴な人物に、茶色に近い肌色は町人や悪人を、赤色は悪人の手下や家来をあらわしています。
このような地色を塗ったあとに、眉や目元、口元などを赤や黒、青などの色を用いて描きながら役に入っていきます。こうして化粧を施すことを「顔をする」といいます。
歌舞伎の隈取りの種類
歌舞伎の隈取には、色によってあらわしている役柄が異なりますが、これ以外にも、形や構図にもさまざまな種類があります。
ここからは、隈取の10種類についてそれぞれ解説していきます。
むきみ隈
むきみ隈は、若々しく正義感にあふれた役に用いる、紅隈(赤い隈取)です。簡素な形が貝をむいた身に似ていることから「むきみ隈」という名がつきました。
地色は白で、目尻と目頭から眉毛まで赤色を縦に入れるものです。曽我五郎や助六などの、血気盛んな若者役によく見られる隈取です。
一本隈
頼りになる力持ちだけど、やんちゃで暴れん坊な役に用いる紅隈(赤い隈取)です。
縦に一本の隈を取ることからこの名がついており、顎の下にも二重あごを示す隈を取ります。2代目市川團十郎が工夫したもので、「国性爺合戦(こくせんやかっせん)」の和藤内など、やんちゃな役をあらわしています。
二本隈
二本隈は、落ち着きのある堂々とした大人の役に用いる隈取です。二本の隈を跳ね上げるように取ることから、二本隈という名前がついています。
あごには青でヒゲを、目尻や唇の内側へは墨を入れていきます。
むきみ隈が若い役柄に用いるのに対して、二本隈は大人の役に用いられることの多い隈取です。
筋隈
筋隈は、怒りに満ちて、超人的な力を持つ勇者の役に用いられる隈取の形の一種です。複数の紅の筋を跳ね上げるように隅を取ることから、この名前がついています。
あごに三角形の紅を入れて、口角へは墨を入れます。
荒事といい、衣装や小道具などを使って超人的な強さを表現しますが、その一種として筋隈を用いるのです。筋隈は、歌舞伎の中でも力強さを表現する隈取なのです。
景清の隈
景清の隈(かげきよのくま)は、武勇に優れた勇者ですが、敵に捕まり閉じ込められ、青白くやつれてしまった役に用いられる隅です。これはよく「景清」という役で使われてたことから、この名前がつきました。
顔の上半分は、さきほどの筋隈と同じ形ですが、下半分は藍で取ることから、「半隈(はんぐま)」とも呼ばれます。
長い間牢屋に閉じ込められ、何も食べずに痩せてしまった様子を藍色で表現しているのです。
公家荒
公家荒(くげあれ)は、高い身分を持っているが、国の転覆を企てるような悪人の役に用いられる藍隈で、冷たく不気味な印象を与えます。
藍隈を使うことで、ただならぬ妖気を感じさせる印象を与え、天皇の位を狙う「公家悪(くげあく)」という役柄に使われる隈取です。
眉を際立たせたり、額に位星(くらいぼし)という丸い形で墨を入れたりします。
赤っ面
赤っ面(あかっつら)は、大悪人の家来や手下で、考えの浅い乱暴者の役によく用いられる隈です。
地色を白ではなく赤で取ることから赤っ面という名前がつきました。
平敵(ひらがたき)や、端敵(はたがたき)といった、悪人の中でも下っ端の役で、カツラは天然パーマのようなちりちりした髪質を施したものが多いです。
紅で、最初に紹介したむきみ隈を取り、あごの下にも紅で隈を取ります。
茶隈
茶隈(ちゃぐま)は、この世のものではない妖怪や精霊、悪霊などへ返信する役に用いられることの多い隈取です。
たとえば、『土蜘』の土蜘や、『茨木』の茨木童子など、実在しない空想の生きものや妖怪の役に施されます。
口は大きく裂けたように描き、眉はつけ眉毛をすることで、不気味な印象を強めるのです。
猿隈
猿隈(さるぐま)は豪快な武士だけど、滑稽で面白い役に用いられる隅です。まるで猿のような顔になることから、この名前がつけられましたが、初代市川團十郎は、弁慶に用いた弁慶猿隈などと使い分けていました。
目のまわりを黒で四角く縁取って、目を大きく見せているほか、眉は「なすび眉」と呼ばれる八の字のような形をしているのが特徴。このように隈取は、動物の顔も表現できるのが面白いところです。
鯰隈
鯰隈(なまずぐま)は、悪人なのにちょっと間抜けで、観客を笑わせる役に用いられる隈です。
猿隈と同じで、「戯隈(ざれぐま)」の一種で、ふざけた隈取という意味を持っています。
景清の隈と同じように、上半分が紅で、下半分が藍という組み合わせで、口の周りが鯰のようなヒゲになることから、この名前がつけられました。滑稽で親しみやすい隈取です。
隈取の色の違い
隈取ときくと、白い下地に赤い線が入っている顔をイメージしますが、紹介したように藍色や茶色を用いることで、さまざまな役柄の性格を表現しています。
たとえば赤であれば、捕まった仲間を助けに来たヒーローだなと見て分かるようにしているのです。ここからは、隈取の色の違いについても解説します。
紅隈
一般にイメージが強い隈取は紅色、赤の隈取ではないでしょうか。
正義感や熱血漢、強い怒りをあらわす赤は、主人公クラスの役に使われます。カツラは逆だっていて、一人では扱えないような大太刀を腰にするなど、怒りによって巨大化した様子をあらわしています。
漫画でも見られるような、主人公が超人へ変身すると考えればわかりやすいでしょう。
正義感の強い一本隈や二本隈も色気があり、主人公を支える役として出てくることもあります。
紅の隈取を施した役が出てきたら、正義感のある、主人公まわりのキャラクターだと認識しましょう。
藍隈
青い隈取は「藍隈」と呼ばれ、身分の高い貴族をあらわします。しかし、天皇や国を転覆させようと企む巨大な悪として描かれるので、いわゆるヴィランの隈取です。
赤とは反対に、冷たく不気味な雰囲気を連想させる効果があります。
青が採用された理由は、「一般人とは違う血が流れている」とか、「凍るような冷たい血が流れている」という意味とされています。英語で貴族はBlueBloodともいわれており、日本と海外で似た意味で使われていたことは、実に興味深いですよね。
茶隈
茶色い隈取を「茶隈」とよんでおり、かわいい響きとは裏腹に、妖怪などの空想のキャラクターに用いられる隈取です。
土蜘(つちぐも)などの妖怪に使われる茶隈は、なぜ茶色なのかという定説が分からない謎に包まれた隈取ですが、雰囲気からして得体のしれないものというイメージはすんなり受け入れられるのではないでしょうか。
まとめ
この記事では、歌舞伎で用いられる隈取について解説してきました。
それぞれに意味があり、役柄をあらわすものとして今でも続いています。
隈取の構図や形は覚える必要はなく、見て直感で分かるものが多いのが特徴です。見ていてなんとなく「正義感ありそう」「悪いやつっぽい」などの直感を信じて、鑑賞するのも楽しいでしょう。
さまざまな伝統文化の中でも、歌舞伎は人気が高い伝統文化です。
もし外国人や友人に隈取ってなんなの?と聞かれたら、本記事の内容を参考に説明してみてください。
外国人に歌舞伎を楽しんでもらうなら、こちらの記事も参考にどうぞごらんください。
30代男性ライター。ホテルに16年間勤務し、旅行業界に携わる。旅行代理店やホテルでの仕事を通じて旅行に興味を持ち、よく旅行に行っています。好きな都市は仙台と博多です。旅を通じて得た知識や日本の魅力を丁寧に伝えていきます。